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津地方裁判所 昭和35年(ワ)41号 判決

原告 三桝紡績株式会社 外一名

被告 設立中の財団法人三桝育 英会設立代表者こと清水清明

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告ら訴訟代理人は「被告は原告三桝紡績株式会社(以下「原告会社」という)に対し一〇、〇〇〇円、同財団法人清水育英会設立準備委員長こと広瀬英利(以下「原告広瀬」という)に対し一、〇〇〇、〇〇〇円及び夫々に対する昭和三五年六月六日(本件訴状送達の翌日)以降右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行宣言を求め、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、原告の主張

一、昭和三四年三月二四日、津地方裁判所に対し、申請人を設立中の財団法人三桝育英会(代表者は被告、以下単に「三桝育英会」という。)被申請人を原告会社及び設立中の財団法人清水育英会(代表者は原告広瀬、以下単に「清水育英会」という。)とする株式処分禁止等仮処分命令の申請(以下「本件仮処分申請」という)がなされ、同裁判所同年(ヨ)第一三号事件として係属し、同裁判所は同年五月二八日右申請人の申請を容れて、別紙記載のとおりの仮処分判決(以下「本件仮処分判決」という。)をなした。そこで申請人代表者である被告は津地裁所属執行吏に右執行の委任をなし、同月二九日と、六月一六日の二回に亘り原告らに対し、原告本店において右仮処分判決第二項の執行をなし、また右判決正本は同年六月四日に原告らに送達された。

右仮処分事件はその後名古屋高裁同年(ネ)第二五五号事件として同裁判所に係属し、審理の結果、同裁判所は、本件仮処分判決の申請人である三桝育英会が当事者能力を有しないこと、仮処分の目的物件である株式が特定していないことを理由に、昭和三五年三月三日、本件仮処分判決を取消し、申請人三桝育英会の本件仮処分申請を却下する旨の判決をなし、右判決は即日確定した。

二、右判決によつて本件仮処分の申請人である三桝育英会は当事者能力を有しないことが確定されたわけであり、従つて被申請人である清水育英会も右判決の趣旨からして同様に当事者能力を有しないものと言えるから、本件仮処分判決の担保提供として表示されている三桝育英会とは、結局設立代表者として表示されている被告清水清明個人と解すべきであり、担保権利者清水育英会とは同様に設立準備委員長として表示きれている原告広瀬英利個人と解すべきである。よつて原告らは、本件仮処分によつて被つた損害の賠償を、担保提供者である被告個人に対して請求できる筋合である。

三、被告は故意又は過失により、当事者能力を有しない三桝育英会を申請人となし、加うるに被保全権利も、その必要性もないのにあえて津地裁に本件仮処分申請をなし、虚偽の主張、疏明をなして、本件仮処分判決を得て、これを執行したのであつて、原告らは、右違法な仮処分判決に基ずく執行によつて多大の損害を被つた。以下にこれを詳述する。

四、(当事者能力の欠けつ)

本件仮処分の申請人として表示されている三桝育英会は、冷静にその実体関係を考えれば訴訟法上当事者能力を有しないことは当初から自明のことであつた。何となれば、三桝育英会は設立中の財団であり、しかもその寄附財産(亡清水千代二郎所有の原告会社の株式三〇四、七六五株のうちの二〇万株と現金二〇万円)は、出捐当時から何らの特定もなされておらず、独立の存在として管理運用せられていなかつたからである。

五、(被保全権利の欠けつ)

(一)  被告が本件仮処分申請において被保全権利として主張した事実は、被告の先代亡清水千代二郎が昭和三一年一月一三日になした同人所有の原告会社の株式三〇四、七六五株を出捐財産とする清水育英会設立のための遺言(別紙第一の寄附行為)は、その後、同人が右株式中の二〇万株を出捐してなした三桝育英会設立のための寄附行為(別紙第二)と抵触し、前記遺言は取消されたから、原告らは、三桝育英会の設立代表者である被告に右二〇万株の株式を引渡すべき義務を負担し、従つて、被告が原告らに右株式の引渡請求権を有するというものである。

(二)  しかし同人のなした遺言は後記のとおり取消されておらず、いぜんとして有効であると解すべきであり、原告広瀬は亡千代二郎の遺言にもとづき遺言執行者の資格において右株式を適法に占有管理し、清水育英会を設立するためにその設立準備委員会を作り自らその委員長となつて、右株式の所有名義を右財団成立のときにおいて右財団名義に書き換える義務を負担しているのである。その一方途として右株式の名義を清水育英会設立準備委員長広瀬英利名義に書換え、右財団の設立許可があるまで、原告会社にその保管を委託したのである。

従つて原告らの本件株式の占有はもとより適法であつて、被告にその引渡を求める権利など存するいわれはないのである。

六、遺言が有効である理由を詳述すれば次のとおりである。

(一)  遺言に抵触する生前処分は存在しない。

(イ) 民法一〇二三条にいう「生前処分」とは、遺言者がその生存中に遺言の目的物となつている特定の権利又は物についてなした処分をいうのであつて、その目的物が不特定物である場合には適用がない。而して亡千代二郎が遺言をしたときも、生前寄附行為に著手したときも、その出捐財産は、同人が所有する原告会社の株式三〇万余株若くは二〇万株と現金二〇万円というのであつて、そこには何らの特定すべきものがない。原告会社の株式は右以外にも存在する。亡千代二郎の生前行為は遺言の目的物が不特定物であるから、これについての処分行為とはいえない。生前寄附行為が遺言寄附行為と同じ目的にでたものであるという理由だけで、その目的物の株式が同一であるから抵触処分であるということはできない。

(ロ) 仮に不特定物についても民法一〇二三条にいう生前処分となり得るとしても、亡千代二郎の最終意思としては、三〇万余株による育英財団の設立にあつたのであり、生前の財団設立行為は、遺言による三〇万余株の財団を設立する一過程、一手段として行われたものである。従つて、右の生前処分が効力を達することなく終つたときには、遺言者の意思は遺言の実現にあると見られるわけであり、本件においては、正にこの生前処分が効力を達しないで終つているのであるから、民法一〇二三条の適用はないというべきある。

(ハ) 寄附行為は、主務官庁の設立許可があつたときに財団設立行為たる法律行為として成立し同時に効力を発生するものであつて、それ以前には、単に意思表示として成立し、その効力を発生しているに過ぎない。従つて、それは設立許可を法定条件としてこれがあるまでは、財産の処分行為とはいえないのである。本件において亡千代二郎の生前寄附行為は、文部省から設立許可がおりることなく終つているのであつて、遺言寄附行為に抵触する生前処分とはなつていないのである。

(二)  仮に亡千代二郎の遺言後の生前における三桝育英会設立のための行為が「生前処分」であるとしても、その設立許可申請書は、同人宛に文部省から、昭和三三年三月二日附の書面で返戻されているから、文部省において、不許可処分を受けたことになるのであつて、これにより「生前処分」は存在しなくなつている。

亡千代二郎の生前行為による財団法人三桝育英会の設立行為は、文部省より寄附財産の増額、変更を求められたものである。而してこの資産の増額ということは、設立者をして常に新たな意思決定を要する事柄であつて、その変更は、寄附行為を改める必要を生ぜしめるものであるから、寄附行為における従属的な事柄ではなく寄附行為の同一性を失わしめるものである。すなわち寄附行為において、財団の資産についての変更は認められないのである。従つて文部省からの設立許可申請に関する書類の返戻によるその要求にそうためには、別個の新たな寄附行為をなすことを要する。亡千代二郎は、この別個の寄附行為をすることなく、生前行為を打切りとして死亡したのである、寄附行為は要式行為であるから、書面を作成し、財産を出捐してなす財団設立行為である。そしてこれは主務官庁の許可を目的とするものである。ところで亡千代二郎の生前寄附行為は文部省の認めるところとならず、その目的は不到達に終つたのである。この官庁の不許可処分は財団設立行為たる寄附行為を全く無意義なものとする。すなわち一たんは寄附行為をしようという意思表示があつたが、財団は不許可処分により成立しないのであるから、財産処分行為としての法律行為は全く存在しないことになるのである。又亡千代二郎が文部省の指示に従つて再申請することなく死亡したことは同人が生前寄附行為の申請を取下げたものであるということができる。

而して右の場合、遺言と抵触する生前行為はいずれも最初から存在しなかつたことになるから、亡千代二郎の意思にそうためにはその遺言で育英財団を設立する他なく、遺言の取消を考える余地はない。

(三)  同一方向論

亡千代二郎の遺言も、生前寄附行為も一つの財団法人設立を目的とする寄附行為である。それは、ともに同一の目的を目指したものであつて生前寄附行為は遺言による寄附行為を時期的に早めて生前に財団設立に著手したものである。亡千代二郎としては、生前寄附行為をやつてみてできたらこれで設立しようという意思すなわち、生前寄附行為か遺言かのどちらかで財団を設立したいという意思であつたので生前寄附行為により、遺言を不必要なものとして真実取消す意思であつたはずがない。遺言が取消される場合は生前寄附行為によつて確定的にその目的を達した場合に限られるのであつて、それまでは遺言を存続させる意思が亡千代二郎にあつたのである。この意味で生前寄附行為は、その目的が成就し、確定するまでは、遺言に抵触する効力を有しない。本件においては、生前行為は文部省の不許可処分によつてその目的を達せられずに終つているから、この生前行為の存在は遺言に抵触するものとはならないのである。

(四)  法定条件論

寄附行為は主務官庁の設立許可を法定条件としているが、これは停止条件と同視すべきである。そしてこの条件成就までは、生前寄附行為が遺言に抵触することはない。すなわち、寄附行為においては、設立許可があつてはじめて財産権の移転が生ずる意味で右法定条件の成就により、寄附行為の効力が生ずるといつてよいし、寄附行為者の意思は、設立許可があれば財産を出捐しようという意思であるといい得る。

本件においては、亡千代二郎の生前寄附行為には設立許可という法定条件が成就していない。亡千代二郎の意思の内容として、生前行為が不許可になれば遺言で財団を設立しようという条件附意思のもとに生前寄附行為に著手したのであり、この条件が成就していないことは右の通りであるから、生前処分は遺言に抵触せず、遺言は取消されていないのである。

(五)  遺言復活論

仮に被告主張の財団法人三桝育英会設立の生前寄附行為が遺言と抵触するとしても遺言の効力は復活していることは亡千代二郎の意思からみても明らかである。

民法一〇二五条によれば抵触する生前処分により取消された遺言は右生前処分が効力を生じなくなるに至つたときでもその効力が復活しないことを原則とし、ただ詐欺、強迫によつて生前処分等がなされた場合のみを例外としている。この規定を文字通り受けとれば、右の例外の場合以外はすべての場合非復活主義をとらねばならないように解される。しかし遺言者において第一の遺言に抵触する遺言又は生前処分をした後、更に明白に第一の遺言に復帰しようとする意思のもとに第二の遺言を廃棄し又は生前処分を取消したことが認められる場合や利害関係人が争いなく当初の遺言の復活を望んでいる場合にまで非復活主義を固執すべきではない。このような場合については、同条但書の趣旨を拡張ないし類推して遺言の復活を認めるのが妥当である。

本件において亡千代二郎が生前寄附行為をしたのも単に遺言の趣旨を時期的に早めて実現しようとしたものであることはその経緯から見て明らかであり、又生前寄附行為が不成功に終つた時、遺言によつて財団を設立してほしい旨を告げてもいる。従つて正に遺言者の意思は遺言の復活を希望していたものというべく、このような場合には遺言の復活を認むべきである。加えて利害関係人争いのない場合には遺言を復活させるべきである。本件の被告は当初は何ら遺言の効力を問題にしていなかつたにもかかわらず、被告がその債権者の追求を受け経済的に行詰つたため、これをのがれる目的で亡千代二郎の遺言は無効になつたと主張したのである。

本件においては右のように亡千代二郎が生前の寄附行為をしたのは遺言の趣旨を時期的に早めて実現しようとしたにすぎないこと、そして又生前寄附行為が不成功に終つた時、遺言によつて財団を設立してもらいたい旨、原告広瀬らに告げていることからみて、亡千代二郎は明らかに遺言の復活を希望していたのであり、又本件において、遺言の復活につき利害関係人も一致してこれを希望しているのである。

したがつて亡千代二郎の生前寄附行為が遺言寄附行為と抵触する行為であり、右遺言が取消されたとしてもその効力は復活しているというべきである。

七、(必要性の欠けつ)

被告は故意又は過失により保全の必要性がないのにこれありとし必要性の事由として次のような事実を主張して本件仮処分判決を得たのであるが、これら事実は全く真実に反することがらであつた。

(1)  原告らは、訴外清水英一、同清水マサの印鑑を偽造のうえ、擅に前記株式の名義書換をした。

(2)  原告らは本件株式を占有していること及び原告広瀬が原告会社の代表取締役であることの地位を悪用し濫用した。

(3)  理由なく株式の保管証明書を発行しなかつた。

(4)  原告広瀬は不法な手段を以てその地位の保全を図つている。

(5)  原告らは被告の財団法人設立許可申請手続に対して申請書原本を不正隠匿し、極めて悪剌な妨害行為を継続している。

(6)  取立不能で欠損の明らかな訴外日本新棉花株式会社に対する債権を資産として原告会社の損益計算書に計上し、架空の利益を作り、違法可罰的な利益配当をしている。

(7)  違法にも取締役たる被告に対する取締役会招集の通知を発せず、事実に相違した取締役会議事録を作成し被告に対し会社帳簿の閲覧禁止している。また理由なく被告の株主名義書換請求を拒絶している。

(8)  不当に役員償与金を獲得しようとしている。

(9)  原告広瀬は原告会社の自動車を自己の利用に便宜に配置し、会社の運営につき不当な行為に及んでいる。

(10)  原告広瀬は被告を除く他の役員と共に、原告会社を喰いものにしようとしている。

しかしながら右の事実は全て真実と相違しており、したがつて本件仮処分の必要性は全く存しなかつたのである。

八、(原告会社の損害)

被告は、以上述べたとおり故意又は過失にもとずき、原告らに対して当事者能力のないものを申請人とし、被保全権利も保全の必要性もないのに本件仮処分判決を得て、違法不当な執行をあえてなしたのであつて、原告会社はこれによつて次のとおりの損害を被つた。

(一)  右仮処分判決の第一回執行は、原告会社の第二二期株主総会の当日その開催直前になされたため、総会の開催及び進行が妨害され、また被告は本件仮処分判決を得たことにより、その主張する事実を裁判所が真実と認定したとして、書面又は口頭を以て、原告会社の取引先である訴外大同生命保険株式会社、同第三相互銀行、同富士銀行備後町支店、同東邦レーヨン、津地方検察庁伊勢支部等に対し喧伝した。被告のこれらの行為により原告会社の名誉、信用、が害され、その業務が妨害された。

(二)  亡千代二郎は原告会社の永代の安泰を念願し、その所有の原告会社株式三〇万余株を基本財産として遺言により清水育英会を設立しようとしたのに本件仮処分判決の結果、清水育英会の設立が不可能視され、原告会社の有力な安定株式が失われたと一般からみられたため、当時原告会社の乗取りを策し、すでに昭和三四年三月頃から株の買集めを始めていた訴外岐阜紡績株式会社社長三好静一郎に絶好の機会を与える結果となり、同年五月末頃、本件仮処分を契機として、被告及びその共謀者である、訴外三好らによる原告会社の株式の買占めが激しくなつたので、原告会社は、株主、金融機関、取引先の動揺を防ぐために、本件仮処分判決に対する対策のための協議等を余議なくされて会社の正常な業務の運営が阻害され、また右買占めのため原告会社の金融機関、取引先等に対する信用等も害されたため、原告会社のこうむつた有形無形の損害は計り知れないものがある。

(三)  そしてこの原告会社の名誉、信用の侵害、業務の妨害のために、原告会社がこうむつた損害に対する慰藉料は一、〇〇〇、〇〇〇円が相当であるが、本訴においては、この内金として五、〇〇〇円を請求する。

(四)  更に本件仮処分事件及び同控訴事件の応訴のための訴訟費用等(弁護士費用も含む。)に五、〇〇〇円以上を要したのであるが、日本弁護士連合会所定の弁護士報酬規定に照らしても右の費用がこれより下廻るということはあり得ないから本訴において右の内金五、〇〇〇円を請求する。

(五)  そして以上の原告会社の損害金合計一〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三五年六月六日(本件訴状が被告に送達された日の翌日)以降支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、被告は原告会社に対して支払う義務があるから、この支払を求める。

九、原告広瀬の損害

亡千代二郎は自己が懸命なる努力のすえ築きあげた原告会社の将来が安泰となり、かつ隆昌を望んで、自己が所有する原告会社の株式を確固不動のものにし、かつ国家社会に有為な人材を育成しようとして、遺言により育英財団の設立を企図し、原告広瀬に対し、亡千代二郎は同人の死後速やかに育英事業を起してくれるよう依頼し本件遺言をしたのである。そして原告広瀬としてはその遺志にそうべく清水育英会を設立しようと努力していたところ、被告の違法な本件仮処分申請によつて挫折を余儀なくされたのであり、原告広瀬は故人の遺志に沿いえぬため、甚しい精神的苦痛を受けた。

また亡千代二郎は、その所有していた株式を確固不動のものとして、原告会社が他から乗取られることのないようにすることを願つていたのに、被告が違法な本件仮処分申請をしたため、前記のような原告会社の株式が、訴外三好らに買占めされるという事態が起つたため、原告広瀬は故人の信頼に充分応えることができないことに日夜懊悩し、その強い責任感から前記の株式買占めに対抗するため、やむなく自己所有の不動産株式等を安い値段で他に売却し、その売却代金を以つて買占めのため不当に値上りした原告会社の株式を取得することを余儀なくされ、原告会社の業務に東奔西走しているのである。

更に、原告広瀬は本件仮処分の執行によつて、原告会社の株式二〇万株の議決権の行使が禁ぜられたため、本件仮処分判決が、名古屋高等裁判所で取消されるまでの原告会社の第二二期、二三期株主総会において正当な議決権の行使が妨げられた。

また、前記の如く被告は本件仮処分申請事件において原告広瀬が清水育英会設立準備委員長の名を利用して、原告会社の乗取りを策しているとか、原告広瀬が亡千代二郎所有の株式を横領したなどと主張し、本件仮処分判決を得るや、右のような事実が真実と認められたかの如く、財界その他に喧伝し、その結果原告広瀬の名誉信用は著しく害された。

この原告広瀬のこうむつた精神的損害を被告は賠償する義務があることはいうまでもなく同原告の精神的苦痛に対する慰藉料は金一〇〇万円が相当であるから、原告広瀬は被告に対して右金員及びこれに対する昭和三五年六月六日(本件訴状が被告に送達された日の翌日)から支払済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、被告の主張

一、原告らの主張一の事実は原告主張の名古屋高裁の控訴判決の理由として仮処分の目的たる株式が特定していないとの理由が存したとの点は争う。その余の事実はすべて認める。但し本件仮処分判決の送達を受けたのは、原告広瀬ではなく、清水育英会である。

二、同二の主張は争う。本件仮処分申請事件についての名古屋高裁において当事者能力なしとされたのは、本件仮処分の申請人である三桝育英会であつて、その代表者である被告ではない。また本件仮処分の被申請人は清水育英会であつて、その代表者である原告広瀬個人ではない。従つて本件仮処分判決にもとずく担保提供者は被告ではなく、同様に原告広瀬は、右担保について担保権利者になり得ない。

原告らの本訴請求が本件仮処分判決による担保権利者としての損害賠償請求というのであれば、原告広瀬が個人の資格において被告個人を相手方としてこれを訴求することは請求自体失当というべきである。

三、同三、四、の主張は争う。被告が本件仮処分の申請人に当事者能力ありと考えたことに、故意も過失もない。

右の当事者能力の有無については本件仮処分申請の審理において、原審、並に控訴審において重要な争点となり、原審と控訴審においてその判断を異にした困難な問題であつた。かように裁判所間においてさえその判断を異にした問題につき、被告が原審と同様な判断のもとに三桝育英会が当事者能力を保有すると考え、これを申請人として本件仮処分を申請したのであるから被告の右仮処分申請にはこの点について何らの過失は存しない。

四、同五の事実について、本件仮処分において、被告の主張する被保全権利は存在した。したがつてこの点について、右の権利が存しないことを前提とする原告らの主張は理由がない。

(一)  同(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は否認する。

亡千代二郎は、昭和三一年一月一三日、自己所有の原告会社の株式三〇四七六五株を出捐して遺言により育英財団設立のための寄附行為をなしたが、その後、生前同年一二月二五日、右の株式のうち二〇万株と現金二〇万円を出捐して財団法人三桝育英会の設立に著手した後、同人は同三三年四月二二日右生前寄附行為の許可のないまま死亡した。而して右の生前寄附行為により遺言寄附行為は取消されたものである。

六、同六の主張は次のとおり争う。

原告らは亡千代二郎の遺言が有効であることを前提として縷々主張しているが、寄附行為は、寄附行為書を作成したことによつて完成し、そこに行為者の財産を出捐する意思が表示されているのであるから財産の帰属関係の如何、ないし設立許可の有無によつて寄附行為の効力が左右されるものではない。

したがつて原告らの主張する寄附財産が不特定物であること、法定条件が未成就であること、生前寄附行為は文部省において不許可処分を受けていることの主張は、いずれも、亡千代二郎の生前寄附行為が、遺言に抵触する関係に立つものである。

また右各寄附行為により設立されるべき財団はその名称、基本財産、運用財産、役員構成を異にしており、いずれも育英財団を作るものであるからとの理由だけで目的同一とはいい得ない。

更に亡千代二郎が各寄附行為時に出捐財産相当以上の株式を所有していながら、別途に取得するであろう株式を出捐財産として遺言により財団を作るとか、そのような不特定な財産で財団設立許可がおりると考えていたと解することは経験則に反するであろう。

生前寄附行為の設立許可申請書が、亡千代二郎のもとに返戻されてきたことは争わないが、これは不許可処分として返戻されたのではない。(遺言による育英財団設立許可申請書が返戻されている事実を原告らは如何に解するのであろうか。)

亡千代二郎は、生前寄附行為により育英財団を独力で設立しようとしていたのであつて、遺言により育英財団の設立を望んでいたのではない。

七、同七の事実について、同項列挙の事実を、被告が本件仮処分事件において、主張し、疏明を提出したことは認める。その余は否認する。これらの事実は虚偽の事実ではなく、被告が本件仮処分を申請したときに、亡千代二郎の生前寄附行為の目的物たる二〇万株の引渡請求権を保全する必要は真実存したのである。

被告は原告広瀬が、原告会社の代表取締役であることを利して、すでに取消された遺言をなお有効なりとして本件仮処分の目的となつた株式の引渡を拒み、更に右株式の議決権をも行使していたので、やむなく本件仮処分を申請したのである。

八、同八、九の事実について

本件仮処分の執行が原告会社の第二二期株主総会当日その開催直前に行われたこと、及び原告広瀬が清水育英会代表者名義で原告主張の株式二〇万株の議決権を行使することを禁ぜられたため、右総会においてその議決権を行使できなかつたことは認める。その余は否認する。

本件仮処分の執行は右のとおり総会開催時前のことであるから右執行によつて右総会の開催及びその進行が妨害されたことはない。

また被告は本件仮処分事件に関心を有している者にその判決書を見せ、その内容について説明したことはあるが、原告ら主張のような事実を財界その他に喧伝したりしたことはないから、被告の行為によつて原告らの名誉信用が害されたことはない。また原告会社は法人であつて、自然人と異り、精神的苦痛は感ずることはできないから慰藉料請求は、主張自体失当である。

原告広瀬は亡千代二郎の遺言による育英財団を設立できないために精神的苦痛を与えられたというが、右の財団が設立できない理由は、本件仮処分によるものではなく、前記生前寄附行為によつて遺言が取消されたからである。したがつて原告広瀬が本件仮処分判決の目的となつた二〇万株の議決権を行使できなかつたからといつてこれは同人が正当な議決権者でない以上当然のことであるから、これによつて何らの損害も生ずるわけはない。

また、原告会社の株式が訴外三好らに買占められたと主張するが、原告会社は、原告広瀬のためのものではなく、一般株主のためのものであるから、誰が株主になろうが、原告会社はこれを妨げる法律上の利益はない。

以上のとおり原告らは本件仮処分によつて何らの損害もこうむつてはいないのである。

第三、立証〈省略〉

理由

一、昭和三四年五月二四日、津地裁が申請人を設立中の財団法人三桝育英会、被申請人を設立中の財団法人清水育英会とする本件仮処分申請を容れて、別紙記載のとおりの本件仮処分判決をなし、同月二九日、同年六月一六日の二回にわたり右仮処分判決に基く、執行がなされたこと、ついで昭和三五年三月三日名古屋高裁において右仮処分申請の申請人が当事者能力を有しないことを理由として右仮処分判決を取消し、申請人の申請を却下する旨の判決が言渡され右判決は即日確定したこと、並びに被告が右申請人財団の設立代表者として、本件仮処分申請において被保全権利として主張した事実は、被告の先代亡清水千代二郎が昭和三一年一月一三日になした同人所有の原告会社の株式三〇四、七六五株を出捐財産とする財団法人清水育英会設立のための遺言(別紙第一の寄附行為)は、その後、同人が生前に右株式中の二〇万株を出捐してなした財団法人三桝育英会設立のための寄附行為(別紙第二の寄附行為)と抵触し、前記遺言は取消されたから原告会社及び右被申請人財団は右申請人財団の設立代表者である被告に右二〇万株を引渡すべき義務を負担し、従つて申請人財団がその引渡請求権を有するというにあつたことは当事者間に争いがない。

二、また成立に争いない甲第一八号証によれば、名古屋高裁が前記のように申請人財団である三桝育英会につき当事者能力を否定したのは、要するに亡千代二郎の生前処分たる寄附行為による財産の出捐は、債権的なものであつて、その寄附財産は同人の個人財産より明確に分別され、右出捐当時から現在まで独立の存在として管理運用されていると言えないことを理由とするものであることが認められる。

ところで民事訴訟法第四六条が法人格を有しない財団であつても代表者又は管理人の定めのあるものは、その名において訴え又は訴えられることができる旨を規定し、かかる権利能力のない財団につき訴訟法上当事者能力を認める理由は、社会の現実において法人格のない財団が発生し、社会活動を営んで取引関係に立つこともあるわけであり、この活動によつて他人との間に紛争衡突を生ずることもあり得るから、従つてこのような場合には率直にこの種の財団の存在の事実を認めて、訴訟上これを当事者としようというにある。

そうすると同条にいわゆる権利能力なき財団とは一定の目的のもとに捧げられた特定の財産であつて、実質的に個人の帰属を離れた独立の存在として、すなわち寄附行為者の個人的財産から明確に分離されて管理運用され、社会生活上一個の団体として取扱われているものをいうと解しなければならない。

本件仮処分申請事件における申請人財団につきこれをみるに亡清水千代二郎が、昭和三一年一月一三日、当時、同人が所有していた原告会社の株式三〇四七六五株を出捐し財団法人清水育英会設立を目的とする公正証書による遺言書を作成したことは当事者間に争いなく、成立につき争いない甲第一号証の一、二、同第二号証、同第三号証、同第五号証の一、二、同第八号証、乙第三号証の一、二、同第八号証、証人辻井正之の証言、及び被告本人清水清明尋問の結果を総合すると、右遺言をした後、亡千代二郎は知人の伊藤忠兵衛にすすめられて、生存中に育英財団を設立しようと考えるに至り、改めて同年一一月二八日生前処分をもつて寄附行為をなし右所有株式のうち二〇万株その他を出捐して財団法人三桝育英会を設立しようとし、同年一二月五日、主務官庁たる文部省にその設立許可申請手続をしたのであるがこれに不備な点があつたため、設立許可を得ることができないで、昭和三三年三月末頃右申請書類が一旦返戻されその後間もなく同年四月二二日に同人が死亡したこと、同人の死後、その次男で相続人の一員である被告が右千代二郎の生前寄附行為にもとづく財団法人の設立手続を受け継ぐものとして同年一二月自ら設立代表者となりその設立許可の申請手続を続行するに至つたが、一方原告広瀬英利も前記千代二郎の遺言の遺言執行者として、その手続を進めるに至つたので、ここに寄附財産の帰属をめぐつて紛争を生じ、いずれの財団にも設立許可がなされていないこと、そして被告の設立しようとしている財団が本件仮処分申請の申請人財団であり、原告広瀬英利が設立しようとしている財団が、本件仮処分の被申請人財団であること、亡千代二郎は、生前寄附行為中において設立すべき財団法人の目的、名称、事務所、資産、及び理事の任免に関する事項を定めているが、同人が右の寄附行為に出捐した財産は同人所有の原告会社の株式三〇四、七六五株のうち二〇万株その他であるところ、右二〇万株について何ら特定されておらず、同人は死亡するまで原告会社の代表取締役の地位にあつて、右出捐株式を含めた全所有株式につき株主権を行使し、これによる配当金も自己の所得として受領していたこと以上の事実が認められ、右に反する乙第三号証の一、二、中の被告本人の供述記載部分及び被告本人尋問の結果はにわかに措信しがたく他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右の事実によれば、亡千代二郎の生前寄附行為における出捐財産の前記二〇万株は、同人の生存中、及び死後において、同人の個人的財産から分離され、独立に管理運用されていたものとはいうことができないから前記控訴判決の説示するとおり本件仮処分申請の申請人財団は、当事者能力を有しなかつたものという他はあるまい。

従つて、本件仮処分は既にこの点において違法というべきである。

三、原告らの本訴請求は、右のような違法な本件仮処分判決の執行を受けたことによつて、原告らのこうむつた損害の賠償を右仮処分において保証として供託された保証金の上に、法上仮処分被申請人に認められている担保権(民事訴訟法五一三条、一一三条)の実行をなさんがためであることは明らかである。

そして本件仮処分申請事件の申請人は三桝育英会であり被申請人は原告会社と清水育英会なのであるから、申請人財団が、当事者能力を有しないとされた場合には本件仮処分における担保義務者は本件仮処分事件において申請人財団名義を用いて仮処分申請をなした被告個人と解するのが相当である。

また担保権利者は原告会社と清水育英会であるが、原告会社は商法上認められた株式会社として、当事者能力を有することはいうまでもないので、以下被申請人財団である清水育英会の当事者能力の有無について検討する。

亡清水千代二郎が昭和三一年一月一三日、当時、同人が所有していた原告会社の株式三〇四、七六五株を出捐し、清水育英会設立を目的とする公正証書による遺言書を作成したことは前記の通りであり、また成立に争いない甲第二号証の一、二、同第八号証、同第二五号証、及び証人辻井正之の証言、ならびに原被告各本人尋問の結果を総合すれば、亡千代二郎は遺言寄附行為中において設立すべき財団法人の目的、名称、事務所、資産、理事の任免に関する事項を定め、理事については、原告会社の代表取締役、同会社の取締役一名、亡千代二郎の相続人であつて、同人の系譜、祭具、墳墓の所有を承継し、祖先の祭祀を主宰するもの一名の合計三名と規定、同時に理事を右遺言の執行者として指定していること、亡千代二郎は昭和三三年四月頃死亡したこと、同人の死後、原告会社の代表取締役の地位についた原告広瀬英利が、右遺言にもとづいて遺言執行者に就任し、遺言寄附行為にもとづく財団法人清水育英会を設立しようとして自ら右財団の設立準備委員長となり、亡千代二郎の遺産中の原告会社の株式三〇四、七六五株の名義を財団法人清水育英会準備委員長、広瀬英利名義に書換え、右株式の保管を原告会社に託し、亡千代二郎死亡後の原告会社株主総会において右株式にもとづく議決権を行使してきたこと、同人が右財団の設立準備委員長として昭和三三年一二月一日財団法人清水育英会の設立許可申請をしたこと右財団の設立許可はまだなされていないが右株式の配当金はそのまま原告会社に留保されていること、以上の事実が認められる。そしてこれらの事実からすれば遺言寄附行為の出捐財産である前記三〇四七六五株は設立されるべき財団法人清水育英会の目的財産として千代二郎死亡後は、同人の遺産から明確に分離され、実質的に個人の帰属を離れた独立の存在として管理、運用されてきたものであり、また原告広瀬が、設立中の財団法人清水育英会の設立準備委員長として代表者的地位に立つて行動していたものであるから、右財団はすでに社会生活上一個の団体として活動しているものと認めるのが相当である。したがつて「設立中の財団法人清水育英会」は民事訴訟法四六条にいわゆる権利能力なき財団として当事者能力を有するものと判断する。もつとも前記遺言寄附行為は後記のとおりに生前寄附行為によつて取り消されているのではあるが、清水育英会が権利能力なき財団として形式上存在し、現実に活動している以上、同同財は現在においてもいぜんとして当事者能力を保有しているものと解すべきである。

以上のとおり本件仮処分の被申請人は「設立中の財団法人清水育英会」であつてその代表者である原告広瀬英利個人ではないわけであるから、原告広瀬が個人の資格で本件仮処分の執行を受けるというようなことは考えられないわけである。したがつて同人は本件仮処分判決の前記担保について何らの権利を取得すべきいわれはないから、これあることを前提とする原告広瀬の本訴請求は、その余の主張を判断するまでもなく、主張自体失当というべきであるから棄却を免れない。

四、本件仮処分申請は申請人財団が当事者能力を有しないものであるため、この点において違法というべきことは、前記のとおりである。そしてこの違法な仮処分を申請し、その執行をしたものは、三桝育英会名義を用いて仮処分申請をした被告個人とみるべきであるから、右違法な仮処分判決に基ずく執行によつて生じた損害について被告に賠償義務があるかどうかについて以下検討する。

(一)  被保全権利について

被告が本件仮処分申請事件において被保全権利として主張した事実は、被告の先代亡清水千代二郎が、昭和三一年一月一三日になした同人所有の原告会社の株式三〇四、七六五株を出捐財産とする清水育英会設立のための遺言は、その後同人が生存中に右株式中の二〇万株その他を出捐してなした三桝育英会設立のための寄附行為と抵触し、前記遺言は取消されたから、原告会社及び被申請人財団は申請人財団(設立代表者は被告)に右二〇万株を引渡すべき義務を負担し、従つて申請人財団がその引渡請求権を有するというにあつたこと、ところが右申請人財団は当事者能力を有せず権利の主体とはなり得ないものであつたことは、前記の通りである。しかしもし右の遺言が真実取消されたものであり、したがつて、原告らがその目的となつた右三〇四、七六五株の亡千代二郎所有の株式を占有すべき権限が認められないものであり、一方被告がいかなる理由にもせよ個人として三桝育英会のため生前寄附行為の目的物である二〇万株の引渡を原告らに対し求め得る実体上の権利があつたとされるならば、本件仮処分は、申請人を被告個人と表示してなすべきを、三桝育英会代表者名義を以つてなしたという点についてのみ誤りがあつたということになるわけであるから、このような形式的な申請人の資格の点のみについて誤りのある仮処分判決の執行について被告に賠償義務を当然に課すべきかどうかは相当慎重に検討されるべきことがらであると考える。

そこでまず、亡千代二郎が遺言後にした生前寄附行為が遺言寄附行為に抵触する「生前処分その他の法律行為」に該当し、そのために遺言が取消されたものとみなされるか否かについて検討する。

亡千代二郎は一つの育英財団の設立を企図していたものであつて二つの育英財団を設立する意思のなかつたものであること、亡千代二郎としては、遺言による育英財団の設立を訴外伊藤忠兵衛のすすめにより、時期を早めて生前にその設立をしようとしたものであること、従つて遺言寄附行為も、生前寄附行為も、同一の目的と設立趣旨にたつており、その出捐財産については、亡千代二郎は生前寄附行為の二〇万株を含む遺言による三〇四、七六五株以外に株式を所有しておらないことは弁論の全趣旨からうかがわれるところである。そしてこれらの事実によれば、遺言寄附行為と、生前寄附行為とは、その内容を実現することにおいて両立しないものであると解される。原告らは、遺言寄附行為及び生前寄附行為において、亡千代二郎が企図した育英事業に同人が出捐した財産は、当時同人が所有していた原告会社の株式三〇四、七六五株又は二〇万株というのであつて不特定物であり、遺言に抵触する生前処分といい得るためには、その目的物とされた財産が特定物であらねばならないから、本件においては遺言に抵触する生前処分は存在しないと主張する。

しかしながら、同人の右の二個の寄附行為の寄附財産が同人の所有する原告会社の株式であつたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨からうかがえる如く、同人は一代にして産をなした事業家であつて投機を事としたことはなく、同人が生前寄附行為に出捐した財産は、同人が懸命なる努力の結果築きあげた右会社の株式であり、同人の所有したもので遺言後、死亡したときまで他に譲渡し、その他の処分をしたことはなかつたのであつて、寄附行為の出捐財産は「亡千代二郎が所有していた原告会社の株式」として特定物と考えられる。従つて亡千代二郎がその所有していた株式を出捐して育英財団を設立する旨の遺言をしながら、後になつてその所有株式の約三分の二を出捐して自ら育英財団の設立に著手したことは、遺言に抵触する生前処分であるということができ、同人の遺言はその生前処分によつて取消されたものとみなす他はない。

原告らは、寄附行為は財産処分行為としては主務官庁の設立許可があつてはじめて成立するものであつて、それがあるまでは「生前処分その他の法律行為」たり得ないと主張するが、寄附行為は、一定の財産を出捐して法人の根本規則を定めて書面を作成するという単独行為たる法律行為であり、そこには、すでに財産を出捐する意思と行為とが含まれており、主務官庁の設立許可以前であつても財産の処分行為として存在するものである。すなわち、ある財産を出捐して遺言寄附行為をした後、右と同一の若くはこれに含まれる財産を出捐して生前寄附行為をすればそれだけで「生前処分」をしたことになるといわなければならない。

民法一〇二三条二項が、遺言後の生前処分により遺言が取消されたものとみなしているのは、遺言後の生前処分のうちに、それが遺言と抵触する内容をもつが故に、遺言者は遺言を取消す意思があつたのであろうと推定されることにある。すなわち遺言取消自由の原則からこの意思の推定を重視し、遺言取消の便法を認めようというのである。従つてその法意からすれば、同条は遺言に抵触する生前処分があるというだけで、遺言取消を擬制するものであつて、それが目的とする法律効果を生じてはじめて遺言が取消されたものと擬制されるものではないのである。それ故に寄附行為をしたというだけで生前処分としての存在をもつに至るのであるから、主務官庁の許可によつて財団法人が設立され出捐財産が該財団に帰属するという法律効果が生ずるまでもなく、生前処分に抵触する遺言は取消されたものと擬制されることになるのである。本件において、亡千代二郎の生前寄附行為はその目的を達成していないのであるが、右生前寄附行為がなされた以上は、それ自体によつてこれと抵触する前の遺言寄附行為は取消されたものといわざるを得ない。

右の判断に反する原告らの主張並に甲第一三号証一七号証一九号証中の記載は当裁判所の採用しないところである。

右のように亡千代二郎の遺言後の生前寄附行為は遺言に抵触する処分である。

原告らは右の亡千代二郎の生前寄附行為が、主務官庁である文部省から不許可処分を受けたこと、若くは文部省に対する設立許可申請を取下げたことにより「生前処分」として存在しなくなつている旨を主張する。右の主張は原告らの他の主張をあわせ考えると、文部省による設立不許可処分によつて生前寄附行為をもつて財団を設立することは不可能になり、若くは亡千代二郎の設立許可申請の取下行為によつて生前寄附行為による財団設立をしないことになつたのであるが、かかる場合、亡千代二郎は、遺言寄附行為によつて財団を設立しようという意思を有していたであろうから、生前処分によつて取消を擬制された遺言の効力の復活を認めるべきであるという主張と解される。また亡千代二郎が、生前寄附行為による財団設立が不可能になつたときその意思を放棄し、遺言によつて財団を設立する意思であつたとの主張も、右同様、生前処分によつて取消を擬制され右遺言が復活するという主張と解される。

更に原告らが法律論として主張する同一方向論、法定条件論も同様復活論であると解される。けだしいわゆる同一方向論についていえば、遺言寄附行為と生前寄附行為とはいずれも育英財団を設立するという同一の目的を目指していたものであるとしても、その内容の実現において両立しないものである以上は、生前寄附行為が文部省の不許可処分によつてその目的を達しえなくなつた時においては、亡千代二郎の意思は、生前処分によつて取消を擬制された遺言の効力を復活させるにあつたということになるのであつて結局は遺言復活論に帰著する。又いわゆる法定条件論についても、財団法人の設立は、主務官庁の設立許可を必要とするものであるが、寄附行為における行為者の意思は、主務官庁の設立許可の有無とは独立に、その財産を出捐しようという意思が確定的に存在するものであるから、寄附行為がなされたこと自体によつて抵触を生ずることに変りがない。とすれば、原告らのこの主張は、ただ生前寄附行為について設立許可が得られなかつたときには、遺言者としては、取消を擬制された遺言の効力を復活させ、遺言によつて財団を設立しようという意思をもつにいたるということであり、従つてやはり遺言の復活論に帰著する。

このように原告らの主張は、全て遺言の効力が復活するということにあるといい得るのであるから、以下生前処分によつて取消を擬制された遺言が復活したかどうかについて検討しよう。

民法一〇二五条は、生前処分によつて取消された遺言は、その生前処分が取消され、又は効力を生じなくなるに至つたときでも、その効力は回復しない旨を規定し、いわゆる非復活主義をとつている。遺言者が遺言後にした生前処分が取消されるか、又はその効力が生じなくなるに至つたときは、遺言を復活させるかどうかは、遺言者の意思を解釈してきめるのが本来であるが、遺言の効力が問題になるときは遺言者が死亡しているのが通常であるので、この意思の解釈は非常に困難であり利害関係人の争いを生じやすくするので、民法は一律にその効力を復活させないこととして非復活主義をとつたのである。ただ同条但書は、生前処分が詐欺又は強迫によつてなされ、右原因にもとづいて取消された場合には、例外的に非復活主義を排除して復活主義をとつている。右は、このような場合には、遺言者の真意が遺言を取消すものではないことが客観的に明らかであり、当然遺言を復活すべきものと考えられるからに他ならない。

従つてその法意からすれば、右のような場合でなくとも、遺言後にした生前処分が取消され、又は効力を生じなくなるに至つたときで、かつ遺言者の意思が客観的に争う余地のないほど明白に遺言の復活を希望するとみられる場合についても、非復活主義を固執すべき理由はなくかかる場合については、同条但書を類推して、遺言の復活を認めるのが相当であると解される。

ところで、本件において原告らの主張は、いずれも遺言の復活の主張に帰著し、亡千代二郎が生前寄附行為によつてその目的を達し得なかつたときは、遺言寄附行為によつて育英財団を設立する意思であつた。あるいは、生前寄附行為による財団設立を取りやめ遺言寄附行為によつて育英財団を設立する意思であつたというのがその中核をなしている。

亡千代二郎の生前寄附行為の財団設立許可申請の書類が文部省から返戻され、同人の生前寄附行為はその目的を到達していないことは当事者間に争いがない。而して右書類の返戻が不許可処分であるか否かはしばらくおくとして、この書類の返戻によつて、同人が生前寄附行為をする意思を放棄し遺言寄附行為によつて財団を設立しようとしたか否かについて検討する。同人が生前寄附行為による財団設立許可申請書の返戻理由を知つていたことは、成立に争いない乙第四号証並に証人辻井正之の証言によつてうかがわれるところである。そしてこれによれば、育英財団の設立には、運用財産として少くとも五〇万円以上が必要であることがわかつていたのであるから、その記載の全く存しない遺言寄附行為によつて財団を設立することはきわめて困難であろうと考えたことが容易に推認できるのである。なおこの点に関する前記証人辻井正之の証言は採用しない。そして右の返戻理由の内容は、運用財産を二〇万円から五〇万円にすること並に会社役員との兼職理事を減員することであつたのであり、このことは当時の同人の資産及び原告会社における地位等を考えると生前寄附行為をとりやめるほどの重要な問題であるとは考えられないところである。もつとも右書類の返戻後、亡千代二郎が死亡するまで何らの措置もとられていないことも弁論の全趣旨によつて明白であるが、右の返戻から同人の死亡までの期間は、同人が文部省に生前寄附行為による財団設立許可申請をしてから右書類が返戻されるまでの期間に比してきわめて短い期間であり、しかも成立に争いない乙第七号証中の証人西田亀久夫の供述部分によれば、設立申請後返戻までの期間に文部省との連絡回数が少なかつたことも考え合わせると、右の期間に何らかの措置あるいは手続がとられていないということだけで、亡千代二郎が生前寄附行為による財団設立の意思を放棄したと考えるわけにはいかない。

かえつて、前記の通り、同人は文部省からの書類の返戻によつて、運用財産の記載が全く存しない本件遺言によつては、財団設立はおそらくできないであろうと考えたことが推認できるのであるから、もし同人が生前寄附行為をとりやめて遺言のとおりの財団を設立しようと考えていたのであるならば、運用財産の点を補充した新しい遺言書を作成する等の何らかの措置をとつたはずである。前記書類の返戻後、同人が死亡するまでの期間がきわめて短かかつたために何もできなかつたとするならば、もつと期間があれば何かしたであろうことを推認させるものがなくてはならないが、この点に関する証人上田九一、同辻井正之の各証言原告本人尋問の結果はたやすく措信しがたく、他に原告らの主張を肯認させるに足る証拠はない。

右のように考えてくると、亡千代二郎は、生前寄附行為による財団設立許可申請書が、文部省から、返戻された後生前寄附行為による財団設立の意思を放棄し、以後は遺言寄附行為によつて財団を設立しようと考えていたという事実も、また生前寄附行為による財団設立が目的を達し得ないときは、遺言寄附行為によつて財団の設立をはかる意思であつたとも認めることはできないのである。したがつて亡千代二郎の遺言は同人の生前寄附行為によつて取消され復活していないという他はなく、その点に関する原告らの主張はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

したがつて、原告らは本件の遺言の目的となつた三〇四、七六五株の株式を占有すべき何らの権限もなかつたわけである。

次に、民法四二条一項は、生前処分をもつて寄附行為をしたときには、寄附財産は財団の設立許可があつたときから、財団の財産となる旨を規定し、同条二項は遺言をもつて寄附行為をなしたときは、寄附財産は、遺言が効力を生じたとき、すなわち遺言者が死亡したときから、財団に帰属したものとみなしている。しかし遺言の場合、遺言が効力を生じたときは、まだ財団は設立許可になつていないのであるから、この場合、寄附財産となつているものを相続人の管理に委ねるのは好ましくないという見地から、法は、将来設立許可があつて財団が設立したときには、遺言が効力を生じたときから寄附財産は財団に帰属したものと擬制するものと考えられる。

本件において亡千代二郎は生前寄附行為をなしたが、その目的財産を特定しないで、かつ設立許可がおりる前に死亡したのであるが、このような場合の寄附財産の帰属について考えてみるのに、この場合に民法四二条一項がそのまま適用されるものとすると、寄附行為者が一定の財産を出捐する意図のもとに、寄附行為をなしたにもかかわらず、その目的財産が、財団の設立許可がないということのために、相続財産となるものとすれば、寄附行為者の意思に反する結果となる可能性があり得るわけである。そうするとこの場合にも民法四二条二項を類推適用すべきものと解せられるが右の場合には寄附行為者の相続人が財団設立のための手続を続行し、その設立許可があつた場合には、寄附行為者が死亡したときからその出捐財産が財団に帰属したものと擬制されることになろう。したがつてこの場合右の相続人は寄附財産が本件における株式のようにまだ特定されていなければこれを相続財産より分離特定して将来の財団のために保管する義務があることになるであろう。

本件における亡千代二郎の生前寄附行為の寄附財産は、同人が所有した原告会社の株式のうち二〇万株その他であつたわけであるから、被告は、同人の相続人として、将来設立許可があつて設立さるべき財団のために右の寄附財産を相続財産より分離特定すべき義務があるわけである。そしてこのためには、本件においては、被告は相続人の資格において同人が所有していた原告会社の株式全部の引渡を原告会社等に対して求めて、しかる後、同人の生前寄附行為の目的財産である二〇万株を特定すべきであつたことになる。

従つて被告は、亡千代二郎の相続人たる資格において三桝育英会のため、本件株式の引渡を原告らに対し求め得べき実体上の権利を有していたものというべきである。

(二)  保全の必要性

被告が原告主張のとおりの事実を、本件仮処分を必要たらしめる事実として主張したことは当事者間に争いがない。

原告らが被告に本件仮処分判決の目的となつた株式の引渡を拒んでいたこと、原告広瀬が財団法人清水育英会設立準備委員長広瀬英利名義で右株式につき、原告会社の株主総会において議決権を行使してきたことは、原告らも陳述するところである。

然るに、原告らは右株式を占有するべき権限は認められないこと前記の通りであるから、特段の事情のないかぎり原告広瀬は、右株式につき、財団法人清水育英会設立準備委員長広瀬英利名義に書換えたり、株主総会において右株式にもとづく、議決権を行使したりする権限はないといわなければならない。しかるに、原告広瀬は右の所為をなしているものであり、また同人は原告会社の代表取締役であることから、会社の利益になることであれ、同人の利益になることであれ、同人の会社における経営がいかなるものであろうと、これを是認する手段として右株式を利用できたわけである。他方被告は、亡千代二郎の相続人として前記のとおり生前寄附行為の目的物たる本件株式を特定し、善良なる管理者の注意義務を以つて保管し、これを将来設立さるべき三桝育英会に引渡すべき責務を有するものであるから、被告としては、清水育英会設立準備委員長広瀬英利名義で右株式の株主権の行使が同人によつて悪用されるときは、相続人としての前記責務が果せなくなるおそれが生ずるものといわなければならない。

従つて、本件仮処分判決の二ないし六項はその必要性があつたものといわなければならない。右の点に関する証人辻井正之、同上田九一の供述並に原告本人尋問の結果はたやすく措信しがたく、他に右を肯認せしめるに足る証拠はない。

(三)  以上述べたとおり、帰するところ、被告は亡千代二郎の相続人たる資格において原告らに対し三桝育英会のため、本件仮処分の申請をなし得る実体上の権利及び保全の必要性を有していたことになるわけであり、この点に着目すると本件仮処分は形式的には違法であるが、実質的には実体関係に合致しているものと言えよう。

しかして、本件仮処分判決においては、亡千代二郎は生前寄附行為と共に昭和三一年一一月二八日自らその主導者となり、財団法人三桝育英会の設立準備総会をひらき、自らその理事長に就任し、右財団法人を代表すべき者となり財団法人設立許可を得た場合直ちに同法人に発展できるようその設立準備行為をすすめていた事実を認定し、右の事実によつて三桝育英会に権利能力なき財団として、当事者能力を認めたことは成立に争のない甲第二四号証により明らかである。

本件仮処分判決において認定した右のような事実は確かに三桝育英会が当事者能力を取得するに必要不可欠な条件であることは疑ないが、これだけでは足りずこれに財団の実質をなす寄附財産そのものが特定され、且つ独立の存在として管理運用されているという条件が加わることを要するものであることは先に縷説したとおりである。

従つて被告が本件仮処分申請をするに当り三桝育英会が右のような必要条件を具備していることから直ちに右育英会が当事者能力を取得したものと考え、右財団名義で本件仮処分申請に及んだことは、設立中の財団の当事者能力についての誤解に基ずくものというべきではあるが、先に認定した被告が相続人たる地位において本件仮処分申請をなし得る実体上の権利及びその必要性を有していた事実及び本件仮処分の被申請人である原告会社及び清水育英会が本件仮処分目的物である二〇万株の株式について何らの権利を有していなかつた事実と本件口頭弁論の全趣旨を併せ考えると被告が当事者能力といういわば本件仮処分申請の形式的資格について誤解したことには被告にとつて無理からぬ点があつたものというべきでありこの見地からして、被告に本件仮処分の右のような形式面についての違法ひいて本件仮処分の執行の違法性の責任を負わしめることは著しく酷であるものというべく、被告に対してはその意味において有責性を否定すべきが相当であると考える。

したがつて、本件仮処分申請は、違法ではあつたが被告には、この点について、故意過失はなかつたということに帰著するから、これあることを前提とする原告会社の請求もまた理由がない。

五、以上の理由により原告会社の本訴請求も、その余の点を判断するまでもなく理由がないから、結局原告らの本訴請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 松本武 高橋爽一郎)

別紙

津地方裁判所昭和三四年(ヨ)第一三号仮処分判決の主文

一、申請人が、保証として、被申請人財団に対し金一〇〇万円被申請人会社に対し金一万円を供託することを条件として、左の通り定める。

二、被申請人等の別紙物件目録記載株式の占有をといて申請人の委任した津地方裁判所の執行吏にその保管を命ずる。

三、執行吏は、申請人がその費用を支出したとき右株券を株式会社東海銀行の金庫にその保管を託することができる。

四、被申請人等は、右物件を第三者に譲渡、質入、その他一切の処分をしてはならない。

五、被申請人たる設立中の財団法人清水育英会は右株式に基いて株主としての権利を行使してはならない。

六、被申請人会社は、その本店において営業時間内にかぎり申請人またはその代理人の申出があるときはそれらの者に対し被申請人会社の株主名簿、株主総会議事録及び付属書類、取締役会議事録及び付属書類の閲覧謄写をさせなければならない。

七、申請人のその余の申請を却下する。

八、申請費用は、被申請人等の連帯負担とする。

第一、遺言による寄附行為

(一) 目的

寄附行為者清水千代二郎は、寄附行為の財産を基金として財団法人清水育英会を設立し、教育に関する寄附を為す事を以て目的とする。

(二) 名称

財団法人清水育英会と称す。

(三) 事務所

三重県度会郡玉城町佐田六、一一六番地

三桝紡績株式会社内に置く。

(四) 資産に関する規定

寄附行為者の所有する三桝紡績株式会社株式額面五〇円全額払込済のもの三〇四、七六五株を基本資産とし、この財産から生ずる株式配当金を以て寄附行為の目的達成に使用するものとする。

(五) 存続期間は予め定めないが寄附行為者から寄附行為を受けた原始寄附財産は、事情の如何を問わず、之を処分することを得ないものとする。

(六) 理事及び監事の任免に関する規定

(1)  理事は左の三名とする。

三桝紡績株式会社代表取締役 一名

同 取締役 一名

清水千代二郎の相続人にして清水千代二郎の系譜祭具噴墓の所有を承継し、祖先の祭祀を主宰するもの(清水英一、其死後は承継人)一名。

(2)  監事は左の二名とする。

三桝紡績株式会社監査役 一名

橋爪きん但し橋爪きんの没後は清水家より選出する。

第二、生前行為による寄附行為

(一) 目的

学術優秀、品行方正でかつ身体強健でありながら、経済的理由により上級学校に進学が困難な者に対して、育英奨学を行い、修学を助け、もつて社会に有為な人材を育成することを目的とする。

(二) 名称

財団法人三桝育英会と称す。

(三) 事務所

三重県度会郡玉城町佐田六、一一六番地

三桝紡績株式会社内に置く。

(四) 資産に関する規定

(1) (イ)寄附行為者清水千代二郎の所有する三桝紡績株式会社株式額面五〇円、全額払込済のもの二〇万株及び現金二〇万円

(ロ) 資産から生じる果実

(ハ) 事業に伴う収入

(ニ) 寄附金品

(ロ) その他の収入

(2)  資産を基本財産と運用財産の二種とし

(イ) 基本財産は、右三桝紡績株式会社株式二〇万株及び将来基本財産に編入される資産で構成し

(ロ) 運用財産は、基本財産以外の資産とし

(ハ) 寄附金品で寄附者の指定のあるものはその指定に従う。

(3)  基本財産のうち現金は、理事会の議決によつて、確実な有価証券を購入するか、又は定期郵便貯金とし、若しくは確実な信託銀行に信託するか、あるいは、定期預金として理事長が保管する。

(4)  基本財産は消費し、又は担保に供してはならない。

但し、この法人の事業遂行上やむを得ない理由があるときは、理事会の議決を経、且つ文部大臣の承認を受けてその一部に限り処分し、又は担保に供することができる。

(5)  この法人の事業遂行に要する費用は資産から生ずる果実及び事業に伴う収入等運用財産をもつて支弁する。

(五) 理事及び監事の任免に関する規定

(1)  理事は五名以上八名以内(うち理事長一名)監事は二名または三名。

(2)  理事及び監事は評議員会でこれを選任し、理事は互選で理事長一名を定める。

(3)  評議員一〇名以上一五名以内を置き、評議員は理事会でこれを選出し、理事長がこれを任命する。

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